セミナーレポート 「市場が求めるROIC視点の経営戦略」
事業責任者向け経営管理セミナーレポート

東京証券取引所から「株価や資本コストを意識した経営」が強く要請される中、資本収益性の管理・マネジメントの観点から、改めてROIC(投下資本利益率)という経営指標に注目が集まっています。本セミナーでは、企業経営に必須となるROICについて、一橋大学大学院経営管理研究科教授の加賀谷哲之氏とコーポレートベンチャーキャピタリストでMTG Ventures代表の藤田豪氏をお招きし、識者と投資家それぞれの視点から重要性をお話しいただきました。(以下の記事内容は9月29日から10月11日まで開催されたオンラインセミナーから抜粋しました)

ROIC経営による企業革新 ~持続的な企業価値創造の基盤構築~

セミナーの冒頭、一橋大学大学院経営管理研究科教授の加賀谷哲之氏が登壇し、「ROIC経営による企業革新~持続的な企業価値創造の基盤構築~」と題する基調講演を行いました。

1989年から2018年の約30年間、NASDAQやS&P、Nikkei 225、TOPIXなど、世界の主要な株式市況の推移を見ると、1989年6月末を1倍として、海外は5~20倍に成長しているのに対し、日本は約0.6倍と逆に下がっています。日本企業の価値が下がった原因は、生産性の低迷にあると考えました。
企業の生産性は「インプット(投下資本)」と「アウトプット(付加価値)」の比較でわかります。「投下資本」とは、企業が株主や債権者から預かった資金。「付加価値」は生み出した利益です。投下資本より付加価値の方が大きければ生産性は高く、逆に小さければ生産性が低いということになります。この関係性を示す指標が「ROIC」(Return On Invested Capital・投下資本利益率)です。
ROICは、まさに「営業利益」を「投下資本」で割った値で、「投下資本に対してどれだけ利益を出せたか」を表します。
一方、企業活動が将来の利益にどれくらい結びついているかは、「Tobin Q」という指標で評価できます。「時価の投下資本」を「簿価の投下資本」で割った値で、「資金提供者(株主や債権者)がその企業に対してどれだけ高い価値を期待しているか」を示します。
ROICをグラフの横軸に取り、Tobin Qを縦軸に取って各企業をプロットすると、企業ごとの収益力や成長力が明らかになります。これを4象限に分けて分析してみました。

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ROICを横軸、Tobin Qを縦軸に取って企業をプロットし、4象限に分けて分析

ROICとTobin Qが両方とも高い企業(グラフの右下)は、「価値創造」ができている企業。ROICが高く、Tobin Qが低い企業(グラフの右上)は「還元・回収」が求められる企業。ROICが低く、Tobin Qが高い企業(グラフの左下)は「成長」が期待できる企業です。そして、ROICとTobin Qが両方とも低い企業(グラフの左上)は、一刻も早い「再生・改革」が必要な状態にあるといえます。

日本企業の32.2%が「再生・改革」を急務としている

このグラフに日米の上場企業をプロットしたところ、その違いが浮き彫りになりました。

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日米の上場企業を分析した結果、日本企業の32.2%が「再生・改革を必要とする企業」に分類される

日本企業の32.2%が「再生・改革」に属するのに対し、米国企業はわずか15.5%。逆に、「価値創造」に属する米国企業は25.3%なのに対し、日本企業は11.1%です。世界23カ国で比較してみても、日本は「再生・改革」に含まれる企業が最も多く、「価値創造」に含まれる企業が少ない結果となり、韓国に続いてワースト2位でした。
日本企業は資本生産性が低いうえに、低収益性が長く続き、投資家の期待が下がりました。期待が下がると積極的な投資が減り、価値創造企業への資源配分が行われなくなり、さらに収益性が低い状況が続くという、悪循環が起きていたと思われます。

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「失われた30年」を引き起こした日本企業の悪循環。資本生産性が低いために投資家の期待が下がり、価値創造企業への資源配分が行われなくなり、さらに収益性が低い状況が続く

この悪循環を克服するには、ROIC経営を徹底するしかないと思います。しかし、逆にROIC経営をやり過ぎると、事業機会やリスク管理など、将来の成長機会につながる投資を見失う懸念もでてきます。そこで、成長分野に絞り込んで投資し、成長機会を見いだせない場合には、株主還元に回す。このような経営で、投資家の期待感と納得感を高めていく必要があります。
ROICによって経営状態を測定し、これを経営システムに落とし込んでいくには、社員一人ひとりに重要性を認識してもらい、マインドセットを変えていく必要もあります。

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ROIC経営の実践には、社員一人ひとりの意識を変えていく必要がある

ROIC経営とは「資本コスト意識を徹底すること」です。つまり、資本配分の規律を社内に浸透させることが重要になります。情報開示による透明化、ステークホルダーとの対話、しっかりとしたガバナンスというサイクルを回すことで、企業価値を持続的に高めていく好循環を生み出していく必要があります。

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日本企業に求められている好循環

まず、ROIC経営の基盤を作ることで投資家の信頼を得つつ、成長機会に投資するような価値創造ストーリーやその背後にあるロジックツリー、その進捗をどう管理しているかを把握するための逆ROICツリーなどを探求し、オープンに開示することが必要です。それを使って投資家と対話することでエンゲージメントを高め、それに基づいて経営者を選び報酬を決めていくといったガバナンスを強化していきます。開示、対話、ガバナンスのサイクルを回していくことで、持続的な企業価値を高めていくための好循環を生み出す必要があり、これをどう作っていくかが、日本企業の課題と考えています。

投資家視点の成長企業の事業評価

続いてMTG Ventures 代表の藤田豪氏と、パブリックアイデンティティ代表の松下芝雄が登壇し、「投資家視点の成長企業の事業評価」と題するセッションを行いました。松下が聞き手となり、藤田氏に投資家の立場からROIC経営についてお話しいただきました。

松下 芝雄(以下、松下):気鋭のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)として、地方のスタートアップに積極的に投資されています。

藤田 豪氏(以下、藤田):2022年6月に「Central Japan Seed Fund 投資事業有限責任組合(CJS)」を設立し、名古屋をベースに活動しています。約15億円のファンドの約3割を東海4県、残り7割を全国のスタートアップに投資します。また、私の出身地である秋田県でも、若者の起業支援に力を入れています。コロナ禍を経て、地方で働くことの価値が上がり、東京一極集中が崩れ始めています。地方にしかないコンテンツへの投資家の注目は、高まる一方です。

松下:基調講演でも語られていたROICやPBRといった新しい経営指標について、どのように見ていますか。

藤田:起業したばかりの頃は、従業員もまだ数名。商品も開発できていない状態なので、ROICはあまり意識されないと思います。しかし上場が近づき、IRやエクイティ・ストーリーを考えていく段階になると、少しずつ意識し始めます。海外の投資家は期待成長率も高く、調達した資金をどのように投資し、どう回収していくかに高い関心を寄せています。上場や数百億円に上る大規模な資金調達をするレベルになれば、ROICやPBRの開示が極めて重要になると考えます。

松下:経営状況をROICのような定量的な指標で説明していくことは、とても重要なことだと感じます。経営者や事業責任者は、どのような目線で投資家や経営に対応していくべきでしょうか。

藤田:現在、当社の主な投資先企業は13社ほどあります。各投資先の経営者とは、月2回ほどのペースでミーティングしています。コミットした経営計画に対して具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、その達成状況を報告してもらいます。会社の経営状態をリアルタイムに把握できていなければ、株主への報告はもちろん、経営判断もできません。また、経営者は予算を作成し、実績を把握し、常に見通しをアップデートしていかなければなりません。そのためには、お金の流れを含むあらゆるデータを迅速に把握し、予実管理をしていく必要があるわけです。

松下:スタートアップの経営者の中には、まだそうしたことに慣れていない人も多いのではないでしょうか。プレッシャーや負担は大きいと思います。

藤田:そうですね。立てた計画に対して実績がどうなっているのか。KPIを達成できなかったら、その理由はどこにあるのか。スピーディに把握し、対策を打っていく必要があります。その意味で、スタートアップの経営者には、プレッシャーや負担がかかりやすいと思います。そうした経営者の悩みを丁寧に聞き、対策を一緒に考え、サポートしていくのが、私たち投資家の重要な役割です。起業家を孤独にさせないようにしています。

新規事業開発に取り組む企業の経営指標管理DX【X-KPI事例紹介】

対談に続き、「新規事業開発に取り組む企業の経営指標管理DX」と題して、複数の投資案件の進捗把握を効率的に一元管理した事例や、部門ごとの状況把握をスピードアップさせた事例など、パブリックアイデンティティが提供しているクラウドツール「X-KPI(クロスケーピーアイ)」の導入事例が紹介されました。

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「X-KPI」は、主に予実管理の効率化を実現するDXツールで、詳細かつリアルタイムな進捗把握を通じたスピーディな経営管理を実現します。ROICを含めた新たな経営指標にも対応しており、企業の状況や要望に合わせた柔軟なカスタマイズも可能。オンラインとオフラインのサポート体制も充実しており、FAQやアンケート、操作説明会の開催など、スキルやレベルに応じた運用で伴走し早期の定着化を支援しています。また、運用担当者の方との定期ミーティングを行い、プログラムやインターフェースなどの改修を適宜迅速に対応するのみならず、サーバーの常時監視による円滑利用をサポートしています。

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■パブリックアイデンティティのサイトでのご紹介
https://www.p-id.jp/service/x-kpi/

■サイト内コンテンツURL
・<CASE STUDY>初めての予実管理DX化支援クラウドツール X-KPI
https://www.nks.co.jp/casestudy/x-kpi/dx/

・<SERVICE>デジタル化推進 X-KPI
https://www.nks.co.jp/service/digitalization/x-kpi/

出演者

一橋大学大学院
経営管理研究科 教授
加賀谷 哲之 氏

2000年一橋大学大学院商学研究科後期博士課程修了、同博士(商学)、2020年一橋大学商学部教授(現任)、2021-23年 内閣府「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」座長、2022年 特許庁「企業価値向上に資する知財経営の普及啓発に関する調査研究」座長、2023年 特許庁「将来価値を起点とした知財経営の実践と開示に関する調査研究」座長などを務める。その他、日本経済会計学会理事、日本IR学会理事、日本政策投資銀行客員研究員、ニッセイ基礎研究所客員研究員。

株式会社MTG Ventures
代表取締役
藤田 豪 氏

1974年秋田県生まれ。明治大学経営学部卒。1997年、日本合同ファイナンス株式会社(現:ジャフコ グループ株式会社)入社。シードからレーターステージまでの投資、投資先各社での取締役就任、ファンド募集など手掛け、自動運転、AI、保育IoTといった分野への投資を行ってきた。2018年、株式会社MTG Ventures代表取締役就任。MTGグループのコーポレートベンチャーキャピタルとして、これまで6,000人以上の経営者との出会いによって培われた視点をベースに、「VITAL LIFE」を実現するスタートアップへの投資を行っている。2022年地域のシード特化ファンド設立。

株式会社パブリックアイデンティティ
代表取締役
松下 芝雄 氏

1972年福島県いわき市生まれ。中央大学卒業。1999年に友人と立ち上げたWeb事業を売却し、人生初のM&Aを経験。2000年にIT企業に取締役として入社し無料ISP事業責任者を担当。
2003年に株式会社パブリックアイデンティティを起業。米国クラウドベンダー企業とのアライアンスを軸に事業を拡大し、2018年7月以降、株式譲渡により株式会社日本経済社(日本経済新聞グループ)傘下に入り代表取締役を務める。

※内容および出演者の所属・肩書は2024年1月現在のものです。

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