インタビュー(対談) 「2022日本BtoB広告賞」に
おいて上位の賞を独占
今の時代に“効く”BtoB広告に
ついてクリエイターが語る ①

第43回「2022日本BtoB広告賞」では、経済産業大臣賞を受賞したニチレキ株式会社(以下、ニチレキ)の新聞30段/2本シリーズ広告を筆頭に、新聞広告の部で、日本貨物鉄道株式会社の30段広告が金賞を受賞、同じく新聞広告の部で株式会社ジャノメの15段広告が銀賞を受賞と、日本経済社が制作した広告が上位を独占。BtoB広告に関する確かな知見と実績を持つ日本経済社の実力を改めて世に示す結果となりました。 SDGsへの取り組みやパーパス経営が重視される今の時代に、BtoB広告に求められるものとは?そして効果的なコミュニケーションとは? 受賞クリエイターが語ります。<シリーズ形式(全3回)>

出演者

笠 辰一郎
クリエイティブ局
エグゼクティブクリエイティブディレクター

若林 剛
クリエイティブ局
クリエイティブディレクター
コピーライター

目次

経済産業大臣賞を受賞したニチレキの広告から学ぶ
BtoB企業の“思いを届ける広告”とは?

BtoB商材と“生活者”の接点を探す

:ニチレキはアスファルト舗装材の製造、販売および道づくりのリーディングカンパニーですが、「アスファルト」という商材を広告する際に意識した点や難しかったところを教えてください。

若林:一般の生活者が購入することのないアスファルトは、100パーセントBtoB商材です。その一方で、アスファルトは道路の舗装に使われていますから、誰にも馴染み深い存在でもあります。このようにBtoBの商材だけれど、実は一般の生活者に安全や便利をもたらしているモノというのは意外に多いのではないでしょうか。

こうした企業の広告表現を考える時に、私が大切にしているのはBtoB広告ではあってもBtoBの先にいる「Customer(生活者)」を意識した「BtoBtoC」のコミュニケーション構造にすることです。「BtoBtoC」の表現にすることで、ビジネス機会を創出するだけでなく、一般の生活者やステークホルダーに企業ブランドのアピールが図れますから。ですからニチレキの広告もこうしたスタンスで制作しました。難しかった点といえば、ニチレキのアスファルトが持つ優れた特性を業界以外の一般の方、お年寄りや子どもにもわかるように表現していくことでしょうか。

:なるほど。BtoB企業のお悩みとしてよく耳にするのは「どうしたら自分の会社の価値をひろく社会に知ってもらえるか」という点です。こうした課題を持った企業にとって、BtoBの先にいる生活者にも届く表現構造にするというのはヒントになりそうですね。

若林:ヒントになればうれしいですね。金属素材商社の広告を担当したこともありますが、金属素材も最終的にはクルマの一部になったり、半導体部品として誰もが使うPCの一部になったりしますから生活者との接点は生まれます。視野をひろくして見てみると、自社の存在価値をアピールする新たな突破口は見つかると思います。

受賞広告ができるまで

:「BtoBtoC」の表現を追求した結果が「2022日本BtoB広告賞 経済産業大臣賞」受賞につながったわけですね。受賞広告を制作するにあたってニチレキからはどのようなオリエンを受けたのでしょうか。

若林:ニチレキが新聞広告を掲出するのは、基本的に1年に1度、2本ないし3本のシリーズ広告のみです。ですから、そのシリーズ広告にはニチレキがいま世の中に発信したいすべての情報や思いを込めなければなりません。今回の広告のオリエンでは「ニチレキが進める環境対策やSDGsへの取り組み」「最先端のアスファルト製品や工法」をひろくアピールしつつ、インターナルな目的として「社員のモチベーションやロイヤリティ向上」も図りたい、というご要望を伺いました。

:盛り沢山にも聞こえますが「SDGsへの取り組み」「自社製品のアピール」「社内のモチベーションアップ」は、今の時代、企業にとってどれひとつ外せない大切なテーマですものね。こうしたメッセージを伝えるための媒体として、ニチレキは日経新聞を選択しましたがその理由はどこにあったのでしょう?

若林:はっきりとお聞きしたことはないのですが、ニチレキは2019年、2020年にも日経新聞にシリーズ広告を出稿されています。その広告を見た取引先やステークホルダーから大きな反響があったこと、さらに読者からも高い評価と良質なレスポンスが得られたことで、今回も日経新聞への出稿を決断されたのではないかと推察します。

:投資家や企業トップ層の読者が多いだけでなく、就活生にもチェックされている日経新聞は、自社の存在価値など、社会性のあるメッセージを発信するのに適しているということは言えそうですね。
話を戻しましょう。オリエンでクライアントの意向をお聞きしました。あとは広告表現をどうするかですね。

若林:はい。先ほど「最先端のアスファルト製品や工法」をひろくアピールしたいというご要望があった、とお話ししましたが、ビジュアルに関しても具体的な指示がありました。それは、シリーズ1本目の広告には、アスファルトのしなやかさを表現した「棒状のアスファルトを手で曲げている写真」を、シリーズ2本目の広告には「木材チップ入りアスファルト舗装の断面写真」を使ってほしい、というものでした。

BtoBの広告制作に携わっていると、このようないわゆる“技術解説風”な写真をメインビジュアルにしてほしいというご要望をいただくことがあります。「自社の製品や技術に自信がある。だから、見てほしい!」という思いはわかるのですが、それは情報の送り手の発想ですよね。見てもらうためには、受け手に「見たくなる気持ち」を起こさせるひと工夫が必要になります。

:その工夫が、すなわち「クリエイティブ」ということでしょうか。クライアントが希望するメインビジュアルをどう料理して、一般の方の興味を喚起するか。コピーライターの腕の見せ所ですね。

若林:はい。「他人ごと」を「興味あること」に変換できるようなキャッチコピーがつくれれば、商品特性を直球で訴求するビジュアルは、むしろ強い説得力を発揮しますから。ですから「手で曲げられるアスファルト」「木材チップを利用したアスファルト舗装」という製品を、どう一般の方の興味を惹くようにコピーに落とし込むかについて悩みました。

悪戦苦闘したあげく、頭に浮かんだのは “発明”という言葉です。「しなやかさゆえに傷みにくい長寿命なアスファルト」「今までは捨てるしかなかった倒木や間伐材をチップ化し再利用したアスファルト舗装」って、発想的にも技術的にも“大発明”と言えるイノベーションなのではないか、ニチレキはアスファルトにできる最高レベルの環境対策を発明したのではないか。そんな考えに行き着いたんですね。その仮説に手応えを感じたので、“発明”というワードをコピー表現の核に据えることにしました。コアになる言葉が見つかったので、あとは日本という国の特性と商品特性を重ね合わせながら、一般の方にもわかりやすく、興味を持ってもらえるようにコピー化を進めました。これが受賞作となった「このアスファルトは、“長寿の国”の発明だ。」「このアスファルトは、“森林の国”の発明だ。」というコピーが生まれた経緯です。このコピー案を持ってプレゼンに行ったのですが、その時、同席されていた技術開発部門の担当者が「発明」というワードに共感し、気に入ってくれたことを今でもうれしく思い出します。同時に、社内のモチベーションアップという広告目的も果たせそうかな、と胸を撫で下ろしました。

社会にメッセージを発信するということ
BtoB広告の真髄とは?

環境広告はどこへ向かうのか

:最近は、環境広告やSDGsへの取り組みをアピールする広告が増えていますよね。これは「2050年をめどに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という脱炭素社会への所信表明が日本政府から出された影響も大きいと思います。こうした動きのなかで、環境広告についてはどのように受け止めていますか?

若林:環境広告として真っ先に思い浮かぶのは、美しい自然をモチーフにしたビジュアルに「CO2 ◯%削減!」のようなキャッチコピーをつけた広告ではないでしょうか。しかし、ESG経営が求められる今、CO2を減らす努力をすることは常識ですから、こうした広告は読者の印象に残りにくいですし、出稿コストに見合う効果も得られにくいと思います。

先ほど、笠さんにご紹介いただいたように脱炭素社会の実現目標は2050年。今から30年近くも先の話なんですね。その頃には、いまバリバリ働いている中堅社員の方々はすでに定年を迎え、現在の若手社員が経営層に加わっていることでしょう。SDGsは会社の新陳代謝がどんどんと進む中で継続しなければならない長期にわたる取り組みです。ですから「CO2 ◯%削減!」という現時点での途中経過を聞かされるより、「トップが変わろうが、社員が入れ替わろうが、環境対策は断固として継続していく」という毅然たる決意とビジョンを広告で発信してくれる企業に、私なら信頼と魅力を感じます。社会に貢献し続けるという姿勢を伝えることは、企業ブランド力の向上や人材確保につながりますし。

:SDGsを進めるためには、企業も一過性ではない持続可能な取り組みが求められる。しかし、環境対策にはコストや人手もかかるから、環境対応製品で利益を上げるなどビジネスのやり方もトランスフォーメーションする必要がある。このように経営戦略そのものをSDGsにシフトしていく点をアピールすると、ESG銘柄としての企業評価も高まりそうですね。

BtoB広告の使命とは? “刺さる”表現とは?

:BtoB広告についてもう少し若林さんの見解をお聞きしたいと思います。BtoB広告がもっとも大切にしなくてはならないものについて、若林さんはどうお考えですか?

若林:BtoB広告、BtoBのコミュニケーションにおいて、私が大きな学びを得たのは、2011年、東日本大震災の時の経験です。甚大な被害を鑑みて、震災後、世の中からほとんどの広告は姿を消しました。多くの企業が長きにわたって広告出稿を自粛する中で、当時私の担当していたIT企業は日経新聞15段広告3本シリーズの出稿をいち早く決断し、震災の26日後には掲載を始めました。その広告目的は、お客さま企業に「こんなお困りに対してはこのようなサポートを行っています。その窓口はこちらです。」といった情報をお伝えするということ。このシリーズは『復興のためにできることを、いますぐに。』というキャッチコピーのもと、ノンビジュアルで制作、展開したのですが、お客さまから「有益な情報が得られた」と感謝の声が多数届いたほか、日経新聞読者からも「自粛一辺倒のムードから経済活動を復活させるきっかけとなる広告」との評価をいただきました。このプロジェクトにおけるクライアントと日経社チームの合言葉は<つくるのは、「広告」ではなく「報告」>でした。広告は、流行り言葉をつくらなきゃいけないわけでも、面白くなきゃいけないわけでもない。特にBtoB広告には、社会やお客さまが真に求める情報を見極め、勇気を持って発信していく使命がある。これはどんなに時代が変わろうが、決して変わらないBtoB広告の真髄だと思います。

:真に求められる情報を発信していく使命ですか!いいですね。
このIT企業の事例のように、BtoB広告の表現は社会状況や時代背景と切り離すことはできません。逆に言えば、社会や時代の空気感をとらえた表現こそが、広告賞を受賞できるとも考えられます。若林さんは今回のBtoB広告賞だけでなく、日経広告賞なども多数受賞されていますが「広告賞受賞の秘訣」って何かありますか?

若林:前提として、BtoB広告賞や日経広告賞は実際に掲載になった広告が審査対象となります。なので、クライアントのOKをもらい、世に出ることが絶対条件です。賞を狙ってエキセントリックな表現にしたところで、クライアントの理解は得られないでしょうし、世に出ることもないでしょう。ですから、月並みな答えになってしまいますが、クライアントの製品や思いを深く理解したうえで、表現アイデアをどれだけ魅力的にジャンプさせられるか、という点に尽きるのではないでしょうか。あとは・・・そうですね。私が時々やるのは「今の時代、審査員はこんな講評コメントを書きたいんじゃないかな」というのを想像し、そこから逆算して表現を探っていくという発想法です。笠さんがおっしゃったように、受賞作品はその時々の時代や社会の空気を色濃く映し出しています。ですから、与えられたテーマを審査員の先生の目線に立って考えてみると、時代を切り取ったアイデアが見つかることもありますよ。

最後にコピーについてもひとことだけ。SNS等で誰もがコピーライターのように文章表現して発信し、読み手の側も目が肥えている今の時代には、これまで以上に「どう言うか」が刺さる広告になるか否かのカギになると思います。私は「このコピーはパワフルか?」「このコピーはチャーミングか?」「このコピーで企業への“LOVE”はつくれるか?」の3点を自分の評価基準としながらコピーを書いています。

:さすが、広告賞の常連クリエイター!広告の送り手、受け手だけでなく、審査員という客観視点は面白いですね。本日は若林流のクリエイティブについてお話しいただきました。ありがとうございました。

今回は「BtoB広告賞」にスポットを当て、クリエイターの視点から若林さんにお話いただきましたが、受賞作品には「強い商品訴求力」「ブランディング力」「社会貢献へのコミットメント」など、BtoB広告の真髄が詰まっていると改めて感じました。そして、それはまさに日本経済社のクリエイティブ部門が目指しているものでもあります。
次回以降、2022日本BtoB広告賞「金賞」を受賞した<日本貨物鉄道>、「銀賞」を受賞した<ジャノメ>の作品について深堀りしていきます。どうぞご期待ください。

※内容および出演者の所属・肩書は2022年12月現在のものです

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