インタビュー(対談) 経営の意思決定をデータが支える
日経グループのデータ情報サービスがめざす未来

マーケティングだけでなく、ESG、リスクマネジネントなど、経営の意思決定の場面でのデータ活用が必須となっている。新聞のメディアとしての役割が転換期を迎え、生成AIの登場を受けてデータビジネス市場が大きく変わろうとしているいま、日経の情報サービス事業は、これからの日本企業にどんなメリットや変革をもたらそうとしているのか、どんなビジョンを描いているのか。日本経済新聞社でデータ情報サービスを統括されている飯田展久氏にお話しいただきました。

50年以上前から既に構想していた
データ活用の未来

飯田展久(いいだのぶひさ) 1987年日本経済新聞社入社、大阪本社社会部に配属。大阪府警などを担当し、東京・流通経済部に異動。小売業やサービス業などを取材したのち、1999年から2002年までインドネシアのジャカルタ支局長。東京に戻り、キャップやデスクを経て消費産業部長や企業報道部長を務め、2015年から2年間は日経BP・日経ビジネス編集長。2017年から2年間は日経のアジア編集総局長としてタイ・バンコクに赴任。2019年から電子版の事業を担うデジタル編成ユニット長。2022年に常務執行役員 情報サービス担当となり、2023年3月に常務取締役 情報サービス統括。今年3月からインデックス事業統括も兼務。

日本経済新聞社のデジタルサービスと聞いて、多くの方が最初に思い浮かべるのは「日経電子版」でしょうか。国内の新聞としてはいち早く2010年3月に有料版サービスを開始した「日本経済新聞電子版」は、今年で14年目になりますが、実は、日経の情報サービス事業の起源はずっと古く、すでに50年以上の歴史があります。

1970年、日経初のデータ情報サービスとして「NEEDS」が誕生しました。NIKKEI ECONOMIC ELECTRONIC DATABANK SYSTEMの頭文字をとって名付けられたこのサービスは、企業の株価や決算数字を蓄積する仕組みを整備するところから始まり、上場企業の有価証券報告書などからもデータを取り込み、コンピュータで財務分析ができるようにしたものです。当時は今のようなオンラインではなく、「磁気テープ」などにデータを記録して会員企業に提供していました。

開発のきっかけは、記者が日々取材で集めた情報を、新聞の記事として読んでもらうだけでなく、ビジネスの需要にあわせてもっと有効に“活用して”もらえるものにしていきたいという、新聞の枠を超えた構想にありました。

それから14年後の1984年には「日経テレコン」をスタート。日経各紙の記事をデータベース化し、検索することでアーカイブを読めるようにするところから始まりましたが、その後、日経以外の全国紙、地方紙、雑誌や各種調査レポートなど、ビジネスに活用されるあらゆるデータを収録する日本最大級のビジネスデータベースサービスとして大きく成長してきました。

現在収録する記事件数は1.6億本、企業データは140万社分、人物情報30万人分を収録するなど、日経のデータ情報サービスの主力として、多くの企業、大学、金融・研究機関などに活用いただいています。

いま最も注目される
「日経リスク&コンプライアンス」

このほかにも、あらかじめ登録したキーワードでヒットした記事を自動で社内配信する「日経スマートクリップ」や、企業・業界の分析ツール「日経バリューサーチ」、AIを活用して記事を厳選してお届けする「NIKKEI The KNOWLEDGE」など、時代や市場のニーズにあわせ、さまざまなサービスを世の中に送り出してきました。

なかでも、いまお問い合わせを最も多くいただいているのが、2018年にスタートした「日経リスク&コンプライアンス」です。これは、取引先がコンプライアンスを遵守しているかどうかを確認することができるデューデリジェンスツールで、「新聞などのメディアで公知となった情報」「官公庁が開示している行政処分情報」などから網羅的に不芳情報(ネガティブニュース)を確認するというもの。

なぜ、いまコンプライアンスに関する情報に注目が集まるのか。私は、2015年から2017年にかけて「日経ビジネス」の編集長を務めていたのですが、その時『謝罪の流儀』という特集を手掛けました。企業の不祥事はもちろん昔からありますが、当時は不祥事で炎上し謝罪会見を開く企業が増えたこと、そしてその会見自体の不始末でさらに炎上してしまうようなことが頻発した時期でした。SNSの普及なども含め消費者や投資家の目も厳しくなるなか、いまはより一層、社会における企業の役割や健全性が問われ、経営として最も重要な軸としてコンプライアンスを徹底していかなければならない時代になったということだと思います。

実際、金融機関はもちろん、一般事業会社においても、反社会的勢力の排除をはじめ、取引先のリスク管理の強化が求められますし、ネガティブニュースなどによる取引先のリスクを継続的に監視することは必須になっています。また、ビジネスがグローバル化した現在、チェックすべき情報も当然グローバルに広げていく必要があります。マネーロンダリング規制や経済制裁、輸出管理規制、海外贈賄規制など、遵守すべきグローバルの法規制は広範に渡り、日々更新され続けているのが現状です。

「日経リスク&コンプライアンス」は、国内のメディア情報だけではなく、各国制裁・公的リストや要注意⼈物などのウオッチリストと取引先を照合できるようにするなど、常にサービスとしての進化を続けています。

生成AI時代だからこそ、
日経はデータへの信頼性で“攻め”ていく

先ほどの「日経リスク&コンプライアンス」への注目度などからもわかるように、企業活動におけるデータ活用の重要性が今後ますます高まっていくことは、間違いないでしょう。

企業における意思決定において、特に創業社長などの場合、まだまだ「勘」や「経験」で判断するといったことも許されてきたかもしれません。しかし今後、企業ガバナンスが厳しく問われていく流れのなかで、何をもとに経営判断、意思決定をしたのかの裏付けとなる「データ」の存在は重要視されますし、何よりも推測や直感に基づく判断よりも、精度の高い意思決定ができる可能性があります。

例えば、2030年はどんな未来になっているでしょうか。なってみないとわからない、では経営判断はできません。2030年に人口はどのくらいになっているのか、産業規模はどのくらいになっているのか、考える基となるデータがあれば、それらをつなぎあわせ、その時我々は何をすべきなのかバックキャストで考え、意思決定に活かしていくことができます。

データ分析により未来を予測し、自社なりの仮説を立て、実際にそれを実行し、さらにまたデータで検証するというサイクルを繰り返すことで判断の精度を上げていく。この「仮説」と「検証」は、セブンイレブンを育てた鈴木敏文氏の経営観ですが、ぶれない経営の一つの方策ということができるはずです。

一方で、昨今話題の生成AIの発展により、今後新しいデータビジネスが続々と生まれ、日経の情報サービスも今のままでは厳しくなるのではないか、という質問を時々受けます。

しかし、私自身は、この生成AIの登場は我々日経にとっていよいよ強みを発揮できるチャンスだと考えています。正確で信頼性のあるデータに対するニーズが、これまでになく高まってくるはずだからです。一般的な生成AIサービスは、インターネット上で一般に公開されている情報を基に回答を生成します。逆に我々日経が持っているような信頼性が高く、公開範囲が有料読者に限定されているデータにはアクセスできませんし、生成する回答への信頼性はどこまでいっても不透明なままです。

これからは、生成AI技術そのものよりも、むしろクローズドで質の高いデータを持っているか否かが、情報サービスの優劣に直結してくるともいえます。50年以上前からデータの未来構想を持ち、自社メディアだけではなくさまざまなメディアと連携し蓄積してきた私たちにとっては、これからが“攻め”の時代です。日経が保有する独自の高品質な情報は、50年以上前に「NEEDS」、40年前に「日経テレコン」を始めたときよりも、生成AIの利用が急速に拡大する今だからこそ、宝の山であると感じています。

サービスを利用する企業側にとっても、著作権を遵守し、信頼できる情報サービスをパートナーとして選び持つことが、リスクの上でも同時に新たな攻めの場面でも、企業力を高める一つの条件になってくるといえるのではないでしょうか。

経営の意思決定領域での
ベストパートナーへ

この先、私たち日経は、データ情報サービスを通して「企業の意思決定の領域におけるベストパートナー」をめざしていきます。単なる経営、投資、施策立案のためのデータ提供というだけでなく、グループ会社とも協力しあいながら、データを活用していくための教育や、研修、コンサルティングといった領域にも挑戦していこうと考えています。

そのための新しい活動もどんどん始まっています。例えば、ESGに関するデータのデファクトスタンダードを創っていく。そうすることで、企業は自社の課題を他社との比較の中で模索していくことができますし、投資家にとっても比較検討の幅が広がります。さらにコンサルティングや人材教育研修事業などでも伴走し、企業が「日経」をパートナーとすることの価値を強化していきたいですね。

日本経済新聞は、かつては新聞読者に対し「多少難しくてもがんばって読んでください」と、少し極端にいえば読み方や使い方を読者にお任せしてきた部分もあったかもしれません。しかし、お客様が日経グループに本当に求めているのは、情報を活用してどのような意思判断をすればよいのか教えてほしい、ということでもあると考えます。
今後はもっと意思決定につながるあらゆる場面でパートナーになっていきたい。日本経済社がコーポレートミッションに掲げている「信頼される伴走者」を、グループとしてお互いに協力し合いながらめざしていきたいですね。

出演者

飯田 展久 様
日本経済新聞社
常務取締役
情報サービス/インデックス事業統括

聞き手

堀川 康彦
日本経済社
執行役員 情報事業局局長

※内容および出演者の所属・肩書は2024年4月現在のものです。

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