イベントレポート 成長企業に求められる
フェーズ毎の資金調達と対話

政府のスタートアップ支援政策により成長環境が整備される一方で、有名スタートアップ企業の破産申請手続きがニュースで報じられるなど、企業経営におけるファイナンスの重要性が今改めて注目されています。そこでNIKKEISHA STARTUP TABLEでは、企業が成長過程で求められる資金調達への向き合い方について、カレンダー共有アプリを展開する株式会社TimeTree代表の深川泰斗氏と、スタートアップ企業の財務支援で多くの実績を持つ株式会社リンクス代表の鈴木吾朗氏、30年以上スタートアップ企業やベンチャーキャピタルを取材する日本経済新聞社の上田敬氏をお招きし、それぞれの視点から議論を行いました。(以下の記事内容は1月18日に開催されたオンラインセミナーから抜粋しました)

「世界的プラットフォーム」を目指すための投資家との対話

 セミナーの前半では、株式会社TimeTreeの深川泰斗氏が登壇し、起業家の視点から投資家との対話について実体験を交えて講演しました。

 株式会社TimeTreeは、共有とコミュニケーションを前提にしたカレンダーシェアアプリ「TimeTree」を提供しています。現在、全世界で登録ユーザーは5,000万人超。家族やカップル、職場、趣味のサークルの間で予定を共有するために活用されています。

 「TimeTree」の特長として、初めから世界的なプラットフォームを目指していたことがあげられます。これは起業メンバーに韓国スタートアップ企業の出身者がいた影響が大きい。韓国は人口規模的に国内市場を狙えばいいわけではなく、スタートアップからつねにグローバルな展開を視野に入れています。それが刺激となって、「最初から世界を狙っていいんだ」と私自身も考えるようになりました。

 また、私の他に朴且鎮という代表がいますが、彼は日本市場と韓国市場の双方でIPOの経験があります。スタートアップの実情や投資家との対応について経験豊富なメンバーがいたということも、大きな強みといえるでしょう。

 現在、投資ラウンドはシリーズDの段階ですが、これまで資金調達が順風満帆だったかと言えば、決してそんなことはありません。初期には「Googleカレンダーとの差が分かりにくい」と言われ、2,000万人ユーザーを突破した頃には「もう頭打ちではないか」、さらには「カレンダーでどうやって稼ぐのか」といった疑問も投げ掛けられました。

深川 泰斗(ふかがわ やすと) 九州大学大学院で社会学・文化人類学を学び、2006年にヤフー株式会社へ入社。ソーシャル・コミュニケーションサービスの企画を担当。2012年にヤフーからカカオジャパンへ出向後、2014年に株式会社JUBILEE WORKS(現 株式会社TimeTree)を共同設立。2015年3月にカレンダーシェアアプリ「TimeTree」をリリース。

 そうした苦戦を突破する糸口となったのが、キーとなる投資家との出会いです。特に窓口となる担当者との関係は非常に重要だと実感しています。シリーズAの、ごく初期の頃から興味を持ってくれた海外ベンチャーキャピタル(VC)の方は、実際のユーザーにインタビューした時の実感から、「これは世界に通じるサービスになる」と出資を決めてくれました。

 もう一人。まだ100万ユーザーにも達しない時点で興味を持ち、一緒に事業計画を練ってくれた方がいました。創業当初は我々もまったく知識がなかったので、出資だけでなく資金を借りる方法もあることなど多くを学ぶことができました。

 そうした初期の貴重な出会い、またその後の多くの投資家の皆さんとの関係を通して強く思うのは、「自分たちで目指すものをブレずに伝え続けること」の大切さです。世界的プラットフォームを目指すといっても、たとえばコロナ禍など社会状況の変化に巻き込まれることもある。「こうだったら投資してもいい」と言われて、その意見に引き寄せられることもあります。しかし最初に提示したビジョンやミッションは、その時点での大事な「約束」です。そこが誰かの意見や周囲の状況でブレてしまうと、それ以外の部分で整合性が取れなくなってしまう。もちろん周囲の意見を取り入れる柔軟さも必要だと思いますが、芯の部分はブレないでいることが企業の姿勢として重要だと思います。

成長フェーズ毎に求められる信頼形成、資金調達に実装すべきことは何か

 第2部では、深川泰斗氏に加えて、株式会社リンクスの鈴木吾朗氏と日本経済新聞社の上田敬氏を交え、各々の視点から語り合うパネルディスカッションを行いました。

上田:日本でも起業する人が増えています。スタートアップではどのように資金調達をしているのでしょうか。

上田 敬(うえだ たかし) 30年以上スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)を取材。取材拠点「日経渋谷センター」、イベント「FIN/SUM(フィンテック・サミット)」、「日経イノベーション・ミートアップ」の創設メンバー。東京工業大学、早稲田大学、上智大学などでスタートアップやSDGsを講義。 著作は「ベンチャー企業の法務・財務戦略」(共著、商事法務)、「グッドワークス!」(コトラー著、共訳、東洋経済)など。

鈴木:初期段階では、日本政策金融公庫や、市区町村の役所と連携した「創業融資制度」で手元資金を用意するのがスタンダードなやり方だと思います。私も自分で会社を興すときは、自己資金で500万円を出資し、日本政策金融公庫から同額の500万円、融資を受けています。

上田:自己資金と同額程度は借りられるということですか。

鈴木:一般的にはそうですが、事業計画がしっかりしているとか既に創業して売り上げが立っているなどの信用力があれば、2~300万円の資本金に対して1,000万円の融資を受けられた例もあります。

深川:私も鈴木さんからアドバイスを受けて、日本政策金融公庫と創業地である新宿区の窓口へ相談に行きましした。

鈴木:シリーズAで自己資本を強化した後くらいのタイミングでしたね。日本政策金融公庫では、事業計画に担当の方が興味を持って、ご自身もさっそく「TimeTree」のユーザーになってくれた(笑)。そういう前向きな金融機関と出会えたことは大きかったと思います。

鈴木 吾朗(すずき ごろう) 三菱重工業株式会社で航空宇宙部門の管理会計、国産ジェット機計画など策定後、株式会社gumi創業期など複数ベンチャー企業でIPO準備、資金調達に従事し、総額20億円以上を調達した元ベンチャー企業の財務責任者。株式会社リンクスを設立し、「レンタルCFO(社外CFO)」として複数のベンチャー企業の資金調達からM&Aなど出口戦略まで幅広いサポートを手掛ける。創業約8年の累計で約300社、約100億円調達するなど、多数実績有り。

上田:第1部の深川さんのお話で、初期段階で海外VCが登場したことに、時代の変化を感じて驚きました。どういった経緯で海外VCとコンタクトしているのですか。

深川:韓国の投資家と会う機会は最初から多かったです。また投資をしてくれた人から「次はこの人と会ってみないか」と紹介してもらう中で、アメリカやシンガポールの投資家とお会いするケースもありました。

上田:ベンチャーデットなど融資を活用して大きくなろうという動きも話題になっています。

鈴木:金融機関からの融資もありますし、あとは事業会社から社債という形で融資を引き受ける事例もあります。上場が見えてくると、またいろんな制度や選択肢が増えてきますが、そのときどきに最適な選択肢をとっていく形かなと思います。

深川:クラウドファンディングなどもずいぶんと一般的になり、資金調達にも本当にいろいろな方法が出てきているのですね。

上田:金融引き締めや世界規模のさまざまな危機、物価上昇など、ファンダメンタル的には先行きに不透明感もあって、一部ではスタートアップには冬の時代なのではという声もあります。こうした時代に、起業家としては資金調達の観点でどのような心構えをすればいいでしょうか。

鈴木:アフターコロナやウクライナ情勢の影響で金融の指標が下降気味ということもあり、上場時点で株価の値がつきづらいところはあります。そこを抑えた上で、初期の自社の企業価値をきちっと付け、そこから逆算して投資家もそれなりのリターンが得られるような絵を描く。経営者と投資家がお互いにフェアな形で株価の設定をしていくことは、これから起業して資金調達をしようとする方は意識するべきことだと思っています。そのためには、今の市況に合った資本計画を最初から組んでおく必要があります。経営者として欲張り過ぎず、身の丈にあった企業価値を理解し、そのうえでそこから上場していくといった説明の仕方で、投資家さんと出会えていくといいのかなと思います。

上田:キーワードは「フェア」、そして「身の丈」。自分たちが今どのような状況にあるかを、企業側は適切に情報発信するというか。投資家に説明するだけじゃなく、さらなるその先の投資家に説明することも重要なのですね。

鈴木:投資家の立場も理解したうえで、起業家も説明ができないとなりません。あとは自分を応援してくれる投資家と出会い、良き仲間になってもらうこと。もちろんビジネスは理屈の世界ではありますが、感情として「この人と新しいことがやりたい」と応援する気持ちを引き出すことが、重要ではないかと思います。

上田:本日はお二人のご経験をもとに、いろいろと貴重なお話をうかがえました。ありがとうございました。

【NIKKEISHA STARTUP TABLEとは】
日本経済社が運営するスタートアップコミュニティ「NIKKEISHA STARTUP TABLE」。日経グループのリソースに裏づけられた知見とノウハウを基に、ベンチャー・スタートアップ企業や大企業の新規事業部門等に役立つ講座などを開催し、革新的な事業やビジネスの「社会接続」を応援。気軽に学びあい、交流しあえる場を目指します!

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出演者

深川 泰斗 氏
株式会社TimeTree
代表取締役社長 最高経営責任者 CEO

鈴木 吾朗 氏
株式会社リンクス
代表取締役

上田 敬 氏
日本経済新聞社
編集 総合解説センター
担当部長

※内容および出演者の所属・肩書は2024年2月現在のものです。

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