イベントレポート 複雑化するアジアのコミュニケーショントレンド

毎年シンガポールで開催されるアジア最大級の広告祭「Spikes Asia」。2024年は400点近いクリエイティブやキャンペーンのエントリーがありました。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年からは中止やオンライン開催を経て、5年ぶりにリアルでの開催となりました。アジアは世界の中でも最も成長力が高い市場のひとつです。しかし、実態としては少子高齢化が進行する日本などの国や、ベトナムのように国民平均年齢が若い国など、欧米に比べて国ごとに様々な課題を抱えているエリアでもあります。そのような複雑な背景をもつアジアにおける最新のマーケティング事例についてレポートします。

コミュニケーションのキーワードは「Culture」

Spikes Asia 2024で盛んに語られていたのは「Culture」という言葉でした。ほぼすべてのセッションで語られていたといっても過言ではありません。この「Culture」という言葉には2つの解釈があります。

1つ目は、アジアは様々な宗教や生活、貧富の格差が存在するというバックグラウンドとしての「Culture」です。それぞれの地域に独自の文化形成がなされており、消費者にコミュニケーションをとる際に、その地域ごとの「Culture」を念頭に置かないと共感や理解を得にくいという考え方です。日本で行ったことをそのままローカライズしても、その地域の「Culture」にコミットメントしていないと施策の成功には結び付きません。消費者の「Culture」を理解することを前提に考える必要があります。

2つ目は、「Culture」を創造するという点です。消費者に商品を根付かせファンになってもらうためには、その地域ごとに「Culture」を形成する必要があります。

―事例①:インドにおけるキッコーマンのアプローチ

醤油はインドでは調味料という感覚ではなく、「寿司につけるもの」という概念がありました。インドは若い市場で成長性が高く、日本と同様にインドでも使ってほしいという思いからインド市場に進出。注目すべきはいきなりマス広告を実施して消費者の認知を獲得し、市場を切り拓いていくのではなく、まずBtoBとして地元レストランや調理専門学校などに試しに使ってもらったことです。インドの地元の料理に合う調味料であることを作り手側に理解してもらい、普及させようと考えたのです。一見遠回りにも見えるアプローチですが、ロンドンでインド料理を提供するミシュランシェフが醤油を塩の代わりに使って料理を提供していることから、インド料理の調味料としての可能性は、見込みがあったようです。ここで重要なのは既存の食文化を受け入れること。まずは地元のレストランに醤油の可能性を知ってもらい、プロの料理人から浸透させることで、お墨付きを獲得しようとしました。そしてそこから醤油を受け入れてもらう文化を創ること。醤油という調味料がインドでも好まれるように自然に浸透させていくことを重視していました。地元のシェフを集めて意見交換を行い、今では多くのレストランで調味料として普及しているそうです。結果として消費者に対しても近年では知名度を上げてきており、成長市場におけるポジションを確立しつつあるとのことです。もちろん醤油の味をインドの人たちのために合わせるだけでなく、ラベルなどもインド人に好まれるデザインを開発することで、彼らの「Culture」を理解し、「Culture」を共創する活動を行った結果、成長できたという事例です。

―事例②:アジアにおけるマクドナルドの考え方

マクドナルドもワールドワイドに展開している最も有名な企業のひとつと言えるでしょう。彼らもまた、これまでのマーケティングの考え方に「Culture」を重視しています。

こちらはマクドナルドの「Feel  Good Moments」という提供価値に対する考え方のもと、マクドナルドのチキンをどのように楽しんでもらうのか、ということをコアアイデアに据えたキャンペーン事例です。韓国の人気アイドルである「New Jeans」を起用し、ダンスという切り口でSNS上での拡散を狙いました。

・Consumer Insights:ダンスは楽しい感情を表現する手段である
・Product Insights:マクドナルドのチキンは「Feel Good Moments」を提供する商品である
・Cultural Insights:New Jeasnsのファンはキャンペーンに参加する体験と機会をうかがう
・Big Idea:マクドナルドのチキンはとても美味しくて思わず踊りたくなってしまう

このような発想で、まずは韓国でキャンペーンをスタートさせた後、アジアの他地域でも横展開していきました。もちろんその国ごとにローカライズさせたクリエイティブ(ダンスもローカライズされている)を表現するのですが、横串で共通しているのは、マクドナルドがコンセプトとして掲げている「Feel So Good」を念頭に置いたクリエイティブでした。その結果、SNS上で多くの拡散があり成果を上げました。

文化も人も、とにかく「Messy」なアジア

アジアは世界でもとりわけ様々な文化が入り乱れている地域です。その結果、消費者は「Messy(乱雑)」な状態にあるといえます。デジタル化が進んだことでコミュニケーションスピードは格段に上がりましたが、日本の昭和ブームではないですが、アナログなものを求める気持ちが存在する、伝統的なことを重んじたいが、同時に先進的な考え方も取り入れたいなど、逆ベクトルの気持ちが存在する状態です。この複雑な状況にいる消費者を導くためにも「Culture」の2つの考え方が重要になります。課題の背景や文化的な慣習を理解、観察し、新しい文化やコミュニケーションを共創する発想が前提にないと、一方的なキャンペーンになり、消費者と広告主の双方の共感は得られないということが、アジア進出を目指す際には大切な考え方になってきます。

現地視察を終えて

ご紹介したものはSpikes Asiaで取り上げられた中のほんの一部の事例やTipsです。しかしながら、参加したどのセッションからも、「Culture」を理解し、共創することの重要性を感じました。そしてこの「Culture」を念頭においたコミュニケーションの考え方は、日本においても同様のことが言えるのではないでしょうか。伝える相手が生活者でも、企業でも、相手の歴史や価値観を尊重し、寄り添いながらともに「Culture」形成することが、Messy(乱雑)な時代にはより求められるのではないかということです。日本経済社では、企業の海外コミュニケーションをはじめ、コーポレートブランディングに関わる多様なソリューションをご提供しています。海外・国内に関わらず、さまざまな企業をご支援しておりますので、お気軽にご相談・お問い合わせください。

執筆者

飯塚 亮
日本経済社
第3営業局第3営業部 次長

※内容および出演者の所属・肩書は2024年4月現在のものです。

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