イベントレポート 世界最先端のBtoBコミュニケーションを読み解く
~カンヌライオンズ2023レポート~

クリエイティビティの世界最高峰を競う「カンヌライオンズ」。世界中から集まる作品は、企業課題に留まらず社会や国が抱える課題の解決までをゴールとし、その手法も多彩で多様。BtoBコミュニケーションにおいても、人々の行動を起こすデジタル設計や、感情をくすぐる共感体験、最先端の技術開発など、「広告」の枠にとらわれない斬新で実効性のある取り組みが世界の評価を得た。ヒューマンとテクノロジーとが融合した最新のBtoBコミュニケーションについて、カンヌライオンズ2023を訪れた3名が、それぞれの視点で考察します。

カンヌライオンズとは?

世界最大規模のクリエイティビティ・フェスティバル。フランス・カンヌで毎年開催され期間中には約100カ国から15,000人以上が参加します。1954年国際広告フィルム祭として始まり、現在は、広告に限らず、あらゆる形態のコミュニケーションを評価する場へと変遷。時代を反映するように、年々、アワードの部門が増設され、2022年にはCreative B2B部門が新設されました。

国境を超えるクリエイティビティの力

笠:今年も世界中から様々な創意あふれる作品が集まっていました。人々に良い影響を与えるキャンペーンや企業の社会的な存在意義を示す取り組み、社会課題の解決策など、いずれもそれらの施策による成果も含めて評価されました。

秋山:グローバルブランドによる大規模なキャンペーンだけではなく 、自国における身の回りの課題に向きあい、斬新で意外な方法で解決する施策も多くありました。その国ならではの課題への取り組みが、世界的なアワードの場で評価され、他国の人からも共感を得ていることが印象的でした。

森平:広告業界だけでなく、例えば商社や出版社など様々な業種の人たちが集まっていましたね。異業種の方とクリエイティビティについて意見交換できたことは新鮮でした。いまクリエイティビティを必要としている企業は、多い。そう肌で感じました。

笠:社会や人々が抱える課題が複雑化する一方で、人々を幸せにするための素晴らしいアイデアとはシンプルでわかりやすく、文化や民族を超えていくものである、と改めて実感しました。
そんな今年のカンヌライオンズから、現地でも勢いを感じたCreativeB2B部門での受賞作品を振り返り、これからのBtoBコミュニケーションについて考えていきましょう。

Creative B2B部門 受賞作品から読み解く新たな視点

顧客課題・社会課題に斬新なコミュニケーション設計で挑む
Heineken「THE OFFICE CLEANERS」

CreativeB2B部門でSilverを獲得したHeinekenの「THE OFFICE CLEANERS」キャンペーン。アルゼンチンでは10人に7人が長時間労働に従事していることが社会問題化している。その影響で、仕事の後に飲みに行く機会が減り、取引先のバーの収益が25%減少したことからHeinekenは、オフィス近くのバーでのビール売上増加のために、残業中のビジネスパーソンとのコミュニケーションを試みることにした。利用したのは、なんと清掃員! 大手清掃会社と提携して清掃員の制服にQRコードを設置。残業中の従業員がQRコードを読み取ると、有効期限が短い(おそらく1時間程度)Heinekenのクーポンが発行され、従業員に仕事を切り上げ、すみやかにバーに行くことを促した。

笠:シンプルに社会課題を解決しながらも、自社だけでなく取引先の売上にも貢献した明快な作品でしたね。残業過多をビール会社ならではの方法で取り組んだアイデアが素晴らしいです。

秋山:夜遅くまで働くビジネスパーソンが接触する「メディア」が「夜間の清掃員」という発想には目からうろこですね。交通広告やオンラインでのアプローチといった従来の手法ではなく、ターゲットの置かれている状況や心理を読み解くことによって新しいメディアを創り出しています。また、QRコードや制限時間を設けたクーポンなど、すぐに行動を起こさせる仕掛けはデジタルならではですね。

笠:メッセージも「ターゲット心理」を突いています。清掃員の背中には「私を見たら同僚に会う時間です」と書いてあり、さらに彼らが「最寄りのバーに行って同僚と無料のビールを楽しみましょう」と残業中の従業員に呼びかける。Heinekenの好感度も上がりますね。

森平:アイデアも秀逸ですが、実行力あってのクリエイティビティですよね。大手清掃会社7社と提携していますが、単なる話題作りやバズ狙いのキャンペーンではなく、残業をなくそうというHeinekenの徹底した姿勢が、多くの人の共感を生み、このキャンペーンを成功させたのではないでしょうか。

笠:その通りですね。SDGsへの取り組みを発信する企業が増えていますが、共通するのは、主語がI(自社)だけでなくWE(社会)であること。自社の課題を、取引先や社会の課題と連動するものとして捉えることで、取り組むべき活動が見えてくるのではないでしょうか。こうしたひたむきな企業姿勢や行動力といったファクトこそがブランド価値を高めるのだと思います。また、今のデジタル社会において、ターゲットの心理や状況に応じた戦略的なコミュニケーション設計が、BtoBでも重要になってきます。職種や役職だけでなく、置かれている状況やペインを汲み取り、解決のためのアイデアを新たな視点と発想で模索することが大切です。

BtoB広告にもユーモアを
Workday 「ROCK STAR」

CreativeB2B部門でGoldを獲得したWorkdayの「ROCK STAR」キャンペーン。Workdayはアメリカのクラウド型人事・財務ソフトウェアベンダーで、自社のシステムで多くの企業に「ROCK STAR」を生み出してきた(アメリカではビジネスでの最大の褒め言葉として、「あなたは本当にロックスターだね!」と表現する)。そこで、本物のロックスターたちがビジネスの現場で使われる「ROCK STAR」というセリフに疑問を投げかけるCMを制作。真面目なBtoB広告ではなく、見る人を笑わせることによって、Workday=「ROCK STAR」を生み出す会社という認知に成功した。

森平:「ROCK STAR」が印象に残ったのは、出演者の豪華さだけでなく、ユーモアに溢れていたからではないでしょうか。真面目に自社や製品について語るBtoB広告が多い中で、思わずクスッと笑ってしまうTVCMだったからこそ、受賞作品の中でも異彩を放っていました。ユーモアのあるBtoB広告は、それだけで他との差別化になるということですよね。

秋山:確かに、豪華な有名人を起用すれば良い、という単純なことではないですよね。

森平: 「ROCK STAR」では、「Workday=ROCK STARを生み出す会社」をユーモアのある形で伝えるために、本物のロックスターを起用しました。ロックスターがネタの文脈になっており、ユーモアのためにここまでやるか!という本気度がまた笑いを誘います。日本でよく見るTVCMとは笑いの質の違いを感じました。

笠:「面白いコミュニケーション」と「ユーモアのあるコミュニケーション」の違いですね。ユーモアとは「上品で、笑いを誘うしゃれ(デジタル大辞泉より)」です。笑いの種類によってはブランド価値を下げる危険性もあります。その点ユーモアは知的な感性に基づくのでブランドの品位を損なわず、むしろ好感度を高めるのではないでしょうか。

森平:BBDOのCEO Andrew Robertsonのセミナーでは、ユーモアにより記憶のしやすさが90%、推奨度が80%、魅力度が91%、説得力が72%向上するという興味深いデータが示されていました。このTVCMでも9割以上の好感度を獲得したようです。BtoBコミュニケーションでもユーモアを意識的に取り入れたほうが、認知や共感を獲得しやすいということも有り得ると思います。

秋山:毎年カンヌライオンズに参加している方からも、今年はコロナ禍が明けてクスっと笑える受賞作品が増えているとお聞きしました。世の中の潮流としてもユーモアのあるアプローチが求められているのでしょう。
BtoBコミュニケーションの場合、導入関与者が多く、予算規模も大きいので、伝える内容も論理的になりがちです。でも、結局は人が関わることなので、こういった人間味のあるアプローチも必要なのかもしれません。

テクノロジーによる社会課題の解決こそ、BtoBコミュニケーション
INTEL「CERTIFIED HUMAN」

CreativeB2B部門でGoldを獲得したIntelの「CERTIFIED HUMAN」は、ディープフェイクをリアルタイムで検出する史上初のプラットフォーム。心臓が血液を送り出した際に発生する静脈の色の変化を顔全体から収集し、ディープラーニングによってその映像が本物かどうかを判断する技術を開発した。ディープフェイクによる問題が増え、企業や組織が解決策を模索する中、Intelはこの最先端の技術を生み出したことで、チップメーカーという印象を覆し、イノベーターとしての評価を高め、多くの企業や政府機関がこの技術を導入することとなった。

秋山:AIについて言及した受賞作品は、昨年から倍増したそうです。様々な分野でAI技術がビジネスの成長に役立っている一方で、増加するディープフェイク問題を解決するためのAI技術も開発されています。注目度の高い問題であり、企業や社会全体に大きく貢献する技術だからこそ、Intel社の評価向上に繋がったのでしょう。

森平:高度な技術をもつBtoB企業の多くが、広告では製品のスペックや技術を分かりやすく伝えることを意識しがちです。もちろん、大事なことですが、このコミュニケーション方法では、製品や技術に関心がある人にしか、目を向けてもらえないかもしれません。「CERTIFIED HUMAN」では、ディープフェイクという問題を自社の技術で実際に解決することで、技術の革新性を伝えています。コミュニケーションの入口が、技術ではなく、世の中が注目する社会的な問題なので、多くの人に目を向けてもらえます。技術の詳細を説明しなくても、その凄さが実感できますよね。
こうした社会的な問題や課題を入り口にする場合、自社の技術で解決できる「課題の発見」が重要になります。「CERTIFIED HUMAN」は、生成AIの利点ばかりが注目されがちな今、そのリスクに着目した点もクリエイティビティとして評価されたのだと思います。

秋山:技術力の訴求という点でいうと、競合他社といかに差別化を図るかはコミュニケーション上の課題としてよくお聞きします。だからこそ、BtoB企業にもブランディングによる付加価値が必要です。「広く地域や社会に対してどんな価値を提供できるか」といったパーパスとともに伝える企業コミュニケーションが重要となります。

笠:AIをはじめとした最先端の技術の可能性や、そこから派生する新たな問題や課題への対応として、技術そのものがクリエイティビティとなる時代が来るのではと感じました。世の中に与える影響が大きく、ステークホルダーが多岐にわたるBtoB企業だからこそ、そのクリエイティビティは企業理念やパーパスとの一貫性があるか?表現上のアイデアに留まらず、実効性のある解決策か?人々や地域・社会を幸せな方向に導いてくれるのか?といった視点はこれから必須ですよね。BtoBコミュニケーションにおける可能性は今後もっと広がるでしょう。
企業はもちろん、その先の人々や社会を見据えたコミュニケーションで課題解決に貢献していきたいと思います。

出演者

笠 辰一郎
日本経済社
クリエイティブ局
エグゼクティブクリエイティブディレクター

森平 周
クリエイティブ局 第2部
コピーライター

秋山 香月
第1営業局 第2営業部
アカウントディレクター

※内容および出演者の所属・肩書は2023年9月現在のものです。

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