イベントレポート Advertising Week New York 2023
~「Ad Transformation」の現在地と未来~

広告・メディア・クリエイティブ・マーケティングなどのコミュニケーション領域を網羅する世界最大級のイベントである「Advertising Week」。2023年10月にニューヨークで開催された「Advertising Week New York 2023」を視察し、今年の大きなテーマとして感じたのは「Ad Transformation」でした。テクノロジーによって効率性を高めながらも、よりインタラクティブで、アクティブで、顧客満足度の高い、豊かなコミュニケーションが生まれている最新事例からは、テクノロジーと人間らしさを両立する広告の未来を感じました。 「Platformer」「Generative AI」「TV Media」「Sports Marketing」の4つのキーワードでセッション内容をお伝えします。

リアル世界での影響力を増す「Platformer」

今回印象的だったのが、いずれのセッションでもプラットフォームビジネスの勢いを感じたことです。Netflixのセッションでは新たな広告フォーマット「タイトルスポンサーシップ」の発表がありました。エピソードを連続して視聴した後に、長尺で壮大なシネマティック(映画風)CMを放映するもので、視聴者はその広告を視聴すると次エピソードを広告なしで視聴できる仕組みでした。他にも、Netflix初のライブスポーツイベント「Netflix Cup」の発表もあり、プラットフォームの枠を超えたライブコンテンツで熱狂を生み出していくチャレンジングな取り組みには強気な姿勢を感じました。
また、TikTokのセッションでは、TikTok上の広告は『ユーザーエクスペリエンスを向上させることができる新しいタイプのエンターテインメント』と語り、スキンケアメーカーのキャンペーン事例を紹介していました。アメリカで流行中の恋愛リアリティショーに出演している俳優と商品がデートをするというリアリティショー風動画を制作・配信したもので、ブランドのファンがブランド愛や愛用商品を告白するクリエイティブなビデオを投稿するムーブメントが起きるなど、大きな反響につながりました。このキャンペーンは、『共感によって生活者とつながり、ブランドを醸成していく』ことを狙いとしていましたが、では、数秒程度の広告接触からいかに生活者の共感を獲得していくのでしょうか。実は、TikTokは『インタラクティブ率(友人への共有など)が他のSNSと比べて2倍』という特長をもちます。つまり、共感が生まれやすいプラットフォームなのです。ブランドと生活者が共感によって直接繋がり、さらに、アートや音楽など自分らしい表現手法でコミュニケーションすることで、そこに多様で文化的な解釈を伴った共感が生まれ、さらなるムーブメントが拡がっていくという、TikTokの力強さを実感しました。

人間性を試す「Generative AI」

世界中で話題になっている生成AI。FacebookやInstagramを運営するMetaは生成AIの技術を広告イノベーションに活用しようとしています。
アメリカにおいてMetaは単なる広告配信をするためのメディアを提供する会社ではなく、AI を活用した広告最適化を主体的に提供しており、2023年5月に生成AIを活用して広告の生産性、カスタマイズ、パフォーマンスを最大化する「AI Sandbox」を限定的にリリースしました。 具体的には 『生成AIを活用して画像、背景、テキストを大量に自動生成し、商品やサービスのセールスポイントの訴求効果を大きく高める』 もので、2024年にはグローバルにリリースすると発表しました。広告業界においても本格的に生成AIの利活用が進み、広告のパフォーマンスの最適化、及びそれに伴う時間の節約によってもたらされる人間の深い洞察、クリエイティビティの発揮を加速させる必要性を改めて感じました。MetaもそのためにAI機能を構築することに重点的に取り組んでいるということでした。
今後、日本における広告業界でも生成AIの利活用が加速していくものと思われますが、それに伴って人間にしかできないこと、さらには自分にしかできないことを改めて考えさせられるきっかけとなるセッションでした。

ワンプラットフォーム化を目指す「TV Media」

いくつかのセッションを聞いて、生活者の生活習慣の変化にあわせてテレビ業界の変化が著しいと感じました。地上波・ケーブルTV・ストリーミングTVなどのメディアコングロマリット企業であるNBCユニバーサルのセッションでは、『コロナによりテレビの視聴方法が多様化し、特に若年層においてはストリーミングTVの視聴が急拡大した』とテレビ視聴の変化について講演していました。その中で、『広告ビジネスにおいては、ストリーミングTVの広告はセグメントやレポーティングができる利点もあり需要が高まっている。一方で、地上波・ケーブルTVの広告は、旧来の視聴者区分(日本でいうM1、M2など)で広告ビジネスが議論され、生活者の変化に対応できていないことに危機感を持っている』と問題提起がありました。さらに、『視聴者の半数はリアルタイムで番組視聴しつつも、週末には残りの半数がストリーミングで観ていることがある。地上波・ケーブルTVの広告だけでは、視聴者をとらえきれない』とも指摘していました。生活者の視聴習慣や視聴年齢の変化に応じて、広告ビジネスも変化していかなくてはいけないことに言及しており、問題意識の高さを感じました。そして、セッションの中で『テクノロジーの力で、地上波・ケーブルTV・ストリーミングTVという異なるプラットフォームをクロスさせリーチの最大化を可能にしている。そして、将来ワンプラットフォーム化を目標にしている』と語っていたのが、とても印象的でした。
別のセッションでは『「FAST(Free Ad Supported Streaming TV)」という広告付きストリーミングで、視聴無料のサービスが急成長をみせている』という話がありました。FASTでのキャンペーンでは、『有料化した購読者数・クレジット情報提供者・無料トライアルの開始数・アプリのダウンロード数などを追跡することもできる』と話していました。
地上波やケーブルTVでは、直接的な費用対効果を数値で把握することは難しい印象がありますが、今後、テレビ視聴の主流がストリーミングTVになってくれば、キャンペーン成果を可視化できるようになってくると感じました。今、アメリカのテレビ業界は、視聴者の変化に応じて自らをも変えていく柔軟さがあります。テレビ番組というメガコンテンツにテクノロジーを掛け合わせる動きには、今後のテレビ広告に大きな可能性を感じたセッションでした。

テクノロジーがファンをより強固に繋げる「Sports Marketing」

スポーツの商業化が本格的に進んだのは1984年のロサンゼルスオリンピックであるといわれており、それ以来アメリカスポーツ界では放映権を軸にした巨大化が続いています。そんなスポーツマーケティングの本場アメリカでまだまだ歴史が浅いサッカーは、近年特に若者を中心に盛り上がりを見せています。その背景にはメジャーリーグサッカー(MLS)とAppleのパートナーシップがあります。MLSのセッションでは『AppleはApple TVによるMLSの全試合ライブ配信を行っており、その視聴態度の分析によってファン層の拡大の一翼を担っている』との紹介がありました。
また、別のセッションではアメリカ四大プロスポーツの一つである男子プロバスケットボールリーグのNBAが、テクノロジーを活用して集客数を増加させていることが紹介されていました。具体例として、オールスターVIPチケットのNFT化や公式アプリ内でのARやVRの技術導入を挙げており、こういった技術の導入に対して『NBAはかなりオープンなマインドを持っている』と語っていました。公式アプリではファンの行動を分析できる仕組みを導入し、『NBAのライブイベントに参加するファンは、イベントに参加しないファンよりも3.7倍の価値があり、さらにライブイベントに参加するファンの内、テクノロジーに触れるファンは2倍以上の価値があることが分かってきた』ということです。
MLS、NBA双方にいえることとして、テクノロジーを導入することで顧客とのエンゲージメント強化と収益目標を両立して達成することができ、その導入の価値は他業界でもますます上がっていくものとして語られていました。日本でもスポーツチームがスタジアムやアリーナの運営権を取得して、直接データを取得することで、ビジネスを展開し始めています。いかにデータを取得して、ファンとのエンゲージメントを強固にするかが今後のスポーツマーケティングの世界的潮流になりそうです。

現地視察を終えて

会場の盛り上がりは新型コロナウイルス蔓延前のものと同等、もしくはそれ以上であったように感じます。行き交う人々はコミュニケーションを楽しみ、セッションでも会場との掛け合いを楽しむ、「Advertising Week New York」自体が大きなショーであったように感じました。また、「Advertising Week New York」はそのイベント名にもある「Advertising」の領域に留まらず、「Marketing」領域全般に関してのイベントであったことも強く印象に残りました。それはあたかも「Advertising」という言葉が示す領域の拡がりを示しているようにも感じました。
冒頭で触れた「Ad Transformation」とは「広告で人々の生活をより良い方向に変化させること」のことであると考えます。テクノロジーによって広告の世界も大きく変貌を遂げる中で、自分自身も「より良い方向に変化」するためにはどうすればいいか、ということを改めて感じさせられる視察となりました。

執筆者

千葉 覚
日本経済社
第5営業局 第1営業部次長

執筆者

鈴木 正輝
日本経済社
第4営業局 第2営業部次長

※内容および出演者の所属・肩書は2023年12月現在のものです。

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