コラム コーポレート・コミュニケーションの最大の目的である
ポジティブなレピュテーションはいかにして形成されるのか

前回は、コーポレート・コミュニケーションが、コーポレートブランドアイデンティティ、インターナルコミュニケーション、エクスターナルコミュニケーションという主たる3つの活動から成ること、そして、それが、組織、コンタクトポイント、ステークホルダーとの関係の中でどのように位置づけられるかについて記述する図を示しました。この図の中では、それらの活動に取り組む上で重要となる3つのポイントも合わせて提示していますが、今回は、何故この3つのポイントが重要になるのかを考えます。

ポジティブなレピュテーションは企業価値向上のドライバー

コーポレート・コミュニケーションの目的として、ステークホルダーにおける好ましいレピュテーションの形成が重要なものであるということは、多くの機会で指摘されています。この企業で働いてみたい、この企業の株式を購入したい、そして、この企業の製品サービスを購入したい、こうした様々なステークホルダーからのポジティブな意志を示してもらうことが企業価値の向上を目指す上で欠かせないことは言うまでもありません。そしてこれらのポジティブな意志が形成されるために必要となるのが、働くに値する、株式を購入するに値する、製品サービスを購入するに値する、という評価としてのポジティブなレピュテーションです。

ステークホルダーとの約束の実現がレピュテーション獲得のための必須条件

それでは、そうしたレピュテーションはどのようにして獲得できるのでしょうか。ここで注目したいのが、Abratt and Kleyn (2012)に見られるようなコーポレートアイデンティティ、コーポレートブランド、コーポレートレピュテーションの関係についての議論です。そうした議論によれば、レピュテーションとはステークホルダーが保持しているコーポレートイメージへの評価であり、そのコーポレートイメージをマネジメントするために重要な役割を果たすのがコーポレートブランドです。コーポレートブランドとは、組織の視点では、自らがありたい姿を投影したものであり、ステークホルダーは実際のコーポレートブランドの体験を通してコーポレートイメージを形成することになります。こうした前提の下で最も重要な点は、ポジティブなレピュテーションはステークホルダーが期待しているブランドの約束が果たされていると感じたときのみに生じるということです。企業は自らがありたい姿をコーポレートブランドに投影しますが、こうした議論は、レピュテーションの獲得のためにはそのありたい姿が実現されていることが不可欠であることを示しています。

3つのポイントへの着目でコーポレート・コミュニケーションを最適化

Cornelissen(2020)をもとに筆者作成

こうした視点から、前回提示した3つのポイントについて改めて検討してみると、次のようになります。まず、企業がありたいと考える姿、それはステークホルダーにとってのブランドの約束となりますが、それが、多様なステークホルダー、ひいては広く社会の期待を反映したものである必要があります。これを示しているのがポイントAです。昨今、企業のパーパスに注目が集まっているのは、正に自社が目指すものが社会の期待に沿ったものにすることの重要性の認識が高まってきたことにその一因があります。
次に企業がありたい姿、ブランドの約束を実現するためには、企業の組織全体がそれを明確に認識し、それに向かって実際に活動することが求められますが、これを支援するのがポイントB、すなわち「インターナルコミュニケーション」です。パーパスの整備の際に組織内部へのその浸透策が合わせて検討されることが多いのはこのためであると言えます。
ポイントCは、ステークホルダーがそのコーポレートブランドをどのように体験するか、すなわち、図に示されているコンタクトポイントに関わってきます。コンタクトポイントの中で最も大きなものが「製品・サービス」ですが、その内容によって「エクスターナルコミュニケーション」をどのようにデザインするかの判断が分かれてきます。最も分かりやすいのはBtoBを事業領域とする企業の場合です。日本の時価総額上位企業(日本を代表する企業であるとも言えます)の中には多くのBtoB企業がありますが、こうした企業は日経企業イメージ調査のような企業の認知度・イメージについての調査において概してBtoC企業より劣位にあることが多くみられます。これはBtoB企業の製品・サービスが一般には目に触れられることが多くはなく、そのために、社会において重要な役割を果たしそれが資本市場においても認められている、つまりステークホルダーの期待するブランドの約束を実現していてもそれが認知されることは少なくなるためです。有力BtoB企業がTVや新聞を活用した企業広告などの「エクスターナルコミュニケーション」を活発に展開することがあるのは、正にこうした実体とステークホルダーの認識の間に生じている差異を埋めようとするものであると言えます。


以上、今回はコーポレート・コミュニケーションの目的を再検討することで、その活動においてなぜ3つのポイントが重要となるかを考えました。

※Abratt, R. and Kleyn, N. (2012) “Corporate identity, corporate branding and corporate reputations Reconciliation and integration”, European Journal of Marketing, Vol. 46, No. 7/8, pp. 1048-1063.

執筆者

日本経済社
コーポレートコミュニケーション戦略室
博士(経営学)
野口 豊嗣

※内容および出演者の所属・肩書は2023年10月現在のものです。

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